信用取引とは? — 証券会社からお金や株を借りる取引

ふつうの株取引(現物取引)は、自分のお金で買える範囲で株を売買します。信用取引は、証券口座の資金や株を担保(委託保証金)として差し入れ、証券会社からお金や株を借りて、手元資金の約3.3倍まで売買できる仕組みです。読み方は「しんようとりひき」、英語ではマージン取引(margin trading)と呼ばれます。

30万円の資金で約100万円分の取引ができる——つまりテコ(レバレッジ)です。100万円分の株が10%上がれば10万円の利益で、元手30万円に対しては33%のリターン。利益が出れば3倍速で増えますが、損失も3倍速です。ここまでは想像どおりですが、本当の怖さはその先にあります。

信用取引を始めるには、現物取引とは別に信用取引口座の開設審査が必要です。投資経験や年収、金融資産を申告し、証券会社が「この人に貸して大丈夫か」を判断します。最低保証金は30万円と定められており、この時点でハードルが1つ置かれているのは、それだけリスクが高い取引だからです。

現物取引と信用取引の違い — 比べると差は歴然

信用取引の性格は、現物取引と並べるといちばんよくわかります。とくに見てほしいのは「最大の損失」と「持ち続けられる期間」の2行です。この2つが、初心者にとって決定的な差になります。

現物取引で失うのは、どんなに最悪でも投資した金額までです。買った会社が倒産して株価が0円になっても、100万円投資したなら損失は100万円で止まります。信用取引では、損失が担保として預けた保証金を超えることがあり、その超えた分は証券会社への借金になります。株を買って、株がなくなって、なお借金が残るという状態が起こりうるわけです。

現物取引と信用取引の違い
比べるところ現物取引信用取引
必要な資金買う金額と同じだけ必要手元資金の約3.3倍まで取引できる
最大の損失投資した金額まで(株価が0円になった場合)買いは投資額を超えることがあり、空売りは理論上、上限なし
借金になるかならない損失が保証金を超えれば、証券会社への借金として残る
持ち続けられる期間無期限。何十年でも保有できる制度信用は最長6か月。期限が来れば強制的に決済される
保有コストなし金利(買い)や貸株料(売り)が毎日かかる
下落したとき回復するまで待てる追証が発生し、入金できなければ強制決済される
配当・株主優待どちらも受け取れる配当相当額の調整のみ。株主優待は受け取れない
NISA口座使える(利益が非課税)使えない(利益に20.315%の税金)
「待てる」ことがどれだけ強いか現物取引の最大の武器は、下がっても待てることです。リーマンショックでもコロナショックでも、指数レベルでは数年で戻りました。信用取引はその「待つ」という選択肢を制度的に奪われます。長期のバリュー投資やインデックス投資に、信用取引は必要ありません。

追証とは? — 信用取引がいちばん怖い理由

追証(おいしょう)は「追加保証金」の略です。借金で買った株が値下がりして担保が足りなくなると、証券会社から「保証金を追加で入れてください」と求められます。期限は通常、発生の翌々営業日まで。入金できなければ、持っている株は証券会社の判断で強制的に売られ、損失が確定します。自分の意思とは関係なく、いちばん安いタイミングで売らされることになります。

判定に使われるのが保証金維持率です。証券会社ごとに20%や25%といった最低ラインが決まっていて、これを下回った瞬間に追証が発生します。下の表は、30万円の保証金で100万円分の株を買った人の株価が下がっていったときの様子です。

見てほしいのは最後の行です。株価が30%下がっただけで、30万円の保証金は消えてなくなります。もし現物取引で30万円分だけ買っていたら、同じ30%の下落でも損失は9万円で済み、しかも売らずに待つこともできました。同じ相場、同じ銘柄で、結果がここまで変わります。

相場の暴落局面で売りが売りを呼ぶのは、この追証による強制売却が連鎖するからでもあります。下げが下げを呼ぶ日に強制決済されるという、いちばん報われない負け方です。

保証金維持率(%) = (差入保証金 − 含み損)÷ 建玉金額 × 100
保証金30万円で100万円分の株を買った場合(維持率25%の証券会社を想定)
株価の下落率含み損実質の保証金維持率何が起きるか
0%0円30万円30%正常。取引を続けられる
−5%5万円25万円25%ぎりぎりの危険水域
−10%10万円20万円20%追証が発生。約10万円の追加入金を求められる
−20%20万円10万円10%入金できなければ強制決済。損失20万円が確定
−30%30万円0円0%預けた30万円が丸ごと消える
追証は「お金がないとき」に来る追証が発生するのは相場が崩れているときで、そういう日はたいてい他の持ち株も含み損を抱えています。手元に現金がなければ、他の銘柄を売って作るしかありません。追証は「余裕のあるときに払える請求書」ではないのです。

空売りのやり方 — 先に売って、後で買い戻す

空売り(からうり・信用売り)は、証券会社から株を借りて先に売り、値下がりした後に買い戻して返す取引です。2,000円で借りて売り、1,500円で買い戻せば差額の500円が利益。株が下がるほど儲かる、現物とは逆向きの取引です。

手順そのものは難しくありません。証券アプリでは、注文画面で「現物買い」ではなく「信用新規売り」を選ぶだけです。決済するときは「返済買い」または「買戻し」を選びます。操作は数タップで終わるので、リスクの大きさに対して入口が異様に軽いのが、この取引のこわいところです。

空売りの手順(5ステップ)
  • ① 信用取引口座を開設する: 現物の口座とは別の審査があり、投資経験や金融資産の申告が必要です。最低保証金は30万円。
  • ② 保証金を入金する: 現金のほか、保有している現物株を担保にすることもできます(代用有価証券)。
  • ③ 「信用新規売り」で注文を出す: 銘柄・株数・価格を指定します。制度信用か一般信用かもここで選びます。
  • ④ 値下がりしたら「返済買い」で決済する: 買い戻した価格との差額が損益になります。手数料と貸株料が差し引かれます。
  • ⑤ 期限までに必ず決済する: 制度信用は最長6か月。放置していると、期限日に成行で強制決済されます。

空売りの本当のこわさ — 損失に上限がない

操作は簡単でも、損益の構造が現物と決定的に違います。買った株の損失は、最悪でも投資額まで(株価が0円になるところが底)。ところが空売りは、株価が2倍、3倍と上がり続ければ損失に上限がありません。上がるほうには天井がないからです。

しかも空売りには、損失を自動的に膨らませる仕組みがあります。株価が上がると、空売りしている人たちは損切りのために買い戻さざるをえません。その買い戻しがさらに株価を押し上げ、また別の空売り勢が買い戻しを迫られる。この連鎖を踏み上げ(ショートスクイーズ)と呼びます。理屈のうえでは正しい弱気の見立てでも、踏み上げに巻き込まれれば途中で退場させられます。

さらに、空売りには買いにはないコストがあります。株を借りる料金である貸株料が毎日かかり、株不足になった銘柄には逆日歩(ぎゃくひぶ・品貸料)という追加コストが発生します。逆日歩は上限がなく、人気の株主優待銘柄の権利確定日前などに跳ね上がることがあります。1日待っただけで想定外の金額を請求される、というのは実際に起きている事故です。

損失の非対称性2,000円の株を現物で100株買う → 最大損失は20万円(株価が0円になった場合)。同じ株を2,000円で100株空売りする → 株価が8,000円になれば損失は60万円で、上限はありません。「下げは有限、上げは無限」が空売りの宿命です。

制度信用と一般信用の違い — 期限とコストで選ぶ

信用取引には2種類あり、どちらを選ぶかで期限もコストも変わります。制度信用取引は取引所のルールに沿ったもので、金利や貸株料は比較的低い代わりに期限が最長6か月と決まっており、逆日歩も発生します。一般信用取引は証券会社が独自に定めるもので、期限が長い(無期限のものもある)代わりに、コストは高めに設定されるのが一般的です。

初心者が誤解しやすいのが期限です。現物株なら10年でも20年でも持っていられますが、制度信用で買った株は6か月後に必ず決済しなければなりません。「そのうち戻るだろう」が通用しない世界だ、と押さえておいてください。

制度信用と一般信用、4つの違い
  • ① 返済期限: 制度信用は最長6か月。一般信用は証券会社が決めるので、無期限のものもあります。
  • ② 金利・貸株料: 制度信用は比較的低め。一般信用は高めに設定されることが多く、長く持つほど差が出ます。
  • ③ 対象銘柄: 制度信用は取引所が選んだ銘柄に限られます。一般信用の取扱いの幅は証券会社次第です。
  • ④ 逆日歩: 制度信用では発生し、しかも金額に上限がありません。一般信用では発生しません。
優待クロス取引も無傷ではない現物買いと信用売りを同時に行って株主優待だけを取る「優待クロス」という手法がありますが、制度信用で行うと逆日歩が発生し、優待の価値を上回るコストを取られることがあります。手数料・貸株料・逆日歩を全部足して計算できるようになってから、と考えてください。

自分でやらなくても知識は役に立つ

ここまで読んで「やらない」と決めたなら、それが正解に近い判断です。ただし、信用取引の知識そのものは市場ニュースを読むうえで確実に役立ちます。

「信用買い残が多い」は、借金で買っている人が多いという意味です。彼らはいずれ返済のために売らなければならないので、その売りが上値の重しになりやすい。逆に「空売り比率が高い」は、悲観が強いことを示す一方で、買い戻しによる反発の燃料が溜まっているとも読めます。信用残高(信用倍率)は証券アプリの銘柄ページや東証の週次データで確認できます。

株価を動かすエンジンは、業績とバリュエーションだけではありません。誰がどれだけ買わされ、売らされる立場にいるかという需給も、短期の値動きを大きく左右します。信用取引は、その需給を読むための地図なのです。

使わない知識にも価値がある暴落のニュースで「追証による投げ売り」という言葉が出てきたとき、何が起きているかがわかる。それだけでも、市場を落ち着いて眺められるようになります。知っていることと、やることは別で構いません。

まとめ

信用取引は、証券会社からお金や株を借りて手元資金の約3.3倍まで売買できる仕組みです。空売りは株を借りて先に売り、下がったところで買い戻す逆向きの取引。どちらも利益の可能性と同じだけ、いやそれ以上に損失の可能性を拡大します。

こわさの本質は2つ。追証による強制退場と、空売りの損失に上限がないことです。保証金30万円で100万円分を買えば、株価が30%下がっただけで元手はゼロになります。同じ下落でも、現物取引なら損失は9万円で、しかも回復まで待つ選択肢が残ります。

初心者に信用取引は必要ありません。現物取引なら、どんなに下がっても失うのは投資した金額までで、退場させられることもない。この「退場がない」という一点が、長く続けるうえで最大の武器になります。

そのうえで、信用買い残や空売り比率といった需給の知識は持っておいてください。自分では使わなくても、ニュースの意味がわかるようになります。まずは気になる銘柄の信用倍率を、証券アプリで一度確認してみるところから。

よくある質問

信用取引とは何ですか? 現物取引と何が違いますか?

信用取引とは、証券口座の資金や株を担保に、証券会社からお金や株を借りて売買する取引です。手元資金の約3.3倍まで取引できます。現物取引との最大の違いは、損失が投資額を超える可能性があることと、保有期間に期限があることです。現物なら株価が0円になっても損失は投資額までですが、信用取引では損失が保証金を超えると証券会社への借金になります。

追証とは何ですか? いくら払うことになりますか?

追証(追加保証金)とは、値下がりで担保が不足したときに証券会社から追加入金を求められる制度です。保証金維持率が最低ライン(20〜25%程度)を下回ると発生します。たとえば保証金30万円で100万円分を買い、株価が10%下がると維持率は20%まで低下し、10万円程度の追加入金を求められます。通常は翌々営業日までに入金しなければ、持ち株は強制的に決済されます。

空売りのやり方を教えてください。

まず信用取引口座を開設し(投資経験などの審査があり、最低保証金は30万円)、保証金を入金します。次に証券アプリの注文画面で「信用新規売り」を選び、銘柄・株数・価格を指定して発注します。値下がりしたら「返済買い」で買い戻し、差額が損益になります。制度信用なら最長6か月以内に必ず決済が必要で、期限が来ると自動的に強制決済されます。

空売りで損失はどこまで膨らみますか?

理論上、上限はありません。買いの場合は株価が0円になるところが損失の底ですが、空売りは株価が上がるほど損が増え、株価の上昇には天井がないためです。2,000円で100株空売りした株が8,000円になれば損失は60万円になります。さらに、売り方の買い戻しが株価を押し上げる「踏み上げ」が起きると、損失は加速度的に膨らみます。

信用取引は初心者でもやっていいですか?

おすすめしません。信用取引の最大の問題は、下落時に「回復を待つ」という選択肢を制度的に奪われることです。追証が払えなければ、相場がいちばん悪いタイミングで強制的に決済されます。長期のバリュー投資やインデックス投資に信用取引は不要で、現物取引だけでも十分に資産形成はできます。仕組みの知識だけ持っておき、実際の売買は現物に限るのが安全です。

信用取引にはどんな手数料やコストがかかりますか?

売買手数料のほかに、買い建てには金利、売り建てには貸株料が毎日かかります。さらに制度信用の売り建てでは、株が不足したときに逆日歩(品貸料)が発生し、この金額には上限がありません。株主優待の権利確定日前などに跳ね上がることがあります。また信用取引はNISA口座で使えないため、利益には20.315%の税金がかかります。

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