バリュー投資とは? — 「価値」と「値段」は別物という発想

バリュー投資(Value Investing)は、「会社の本来の価値」と「市場でついている値段(株価)」は別物だ、という発想から始まります。価値より安い値段で買い、値段が価値に追いつくのを待つ。やることは、突き詰めればこれだけです。

スーパーの見切り品コーナーを想像してください。中身はまったく同じお惣菜が、閉店前には3割引になっている。味は変わらないのに値段だけ下がった——これが「割安」です。株式市場でも、会社の実力は何ひとつ変わっていないのに、市場全体の悲観ムードや一時的な悪材料で株価だけが3割下がることが、数年に一度は必ず起こります。その値札を拾いにいくのがバリュー投資です。

ここで大事なのは、バリュー投資は「いい会社を買う」手法ではないということ。「いい会社を、いい値段で買う」手法です。どんなに優秀な会社でも、価値の2倍の値段で買えば損をします。買う対象ではなく買う値段にこだわる——ここがグロース投資といちばん違うところです。

買値を変えるだけで結果は真逆になる本来1,000円の価値がある株を700円で買えれば、値段が価値に追いつくだけで約43%の利益。同じ株を1,300円で買っていたら、価値に戻るだけで約23%の損です。会社は同じ、変えたのは買値だけ。バリュー投資が「いくらで買うか」に執着する理由がここにあります。

グレアムとバフェット — バリュー投資100年の系譜

バリュー投資の生みの親は、コロンビア大学で教えていたベンジャミン・グレアムです。1934年の『証券分析』と1949年の『賢明なる投資家』で、株を「値動きするギャンブルの札」ではなく「会社の一部の所有権」として扱う考え方を体系化しました。会社を丸ごと買うつもりで値段を計算する、という発想はここから来ています。

その授業を受けた学生の一人が、ウォーレン・バフェットです。バフェットは当初、グレアム流の「純資産より安い、つぶれかけの会社を拾う」やり方を実践していました。吸い殻を拾って最後の一服だけ味わう、という意味でシケモク投資と呼ばれるスタイルです。

ところがパートナーのチャーリー・マンガーの影響で、バフェットは方針を変えます。「そこそこの会社を格安で買う」より「すばらしい会社をまずまずの値段で買う」ほうがいい、と。この転換によって、バリュー投資は「安いだけの株」から「稼ぐ力があるのに安い株」へと軸足を移しました。

いま割安株を探すときにROE(自己資本利益率)や営業利益率を一緒に見るのは、この系譜の延長にあります。安さだけを見ていたグレアムに、質の条件を足したのがバフェット。私たちが使う道具立ては、この2人の合作だと思ってください。

ミスター・マーケットと安全余裕率 — グレアムが残した2つの武器

グレアムは、市場を「ミスター・マーケット」という気分屋の人物にたとえました。彼は毎日あなたのところに来て、「今日はこの値段で株を売ってあげる、買い取ってあげる」と提案してきます。機嫌がいい日はとんでもない高値を、落ち込んでいる日は投げ売り価格を提示してくる。

大事なのは、彼の提案に付き合う義務はないということです。彼が絶望して安値を叫んでいる日にだけ買い、有頂天の日に売ればいい。市場の値動きは「従うもの」ではなく「利用するもの」——これがバリュー投資家の目線です。

もうひとつの核心が安全余裕率(マージン・オブ・セーフティ)です。会社の本来の価値を見積もっても、その見積もりは高確率でズレます。プロでもズレます。だから「1,000円の価値がある」と思った株を950円で買ってはいけない。見積もりが2割違っていたら、その瞬間に損だからです。

700円まで下がったときにだけ買えば、見積もりが2割甘くても(本当の価値が800円でも)まだ利益が残ります。この「のりしろ」が安全余裕率です。橋の設計にたとえられます。10トンのトラックが通る橋は、10トンぎりぎりではなく30トンに耐えるように造る。投資も同じで、「間違えることを前提に、間違えても大丈夫な値段で買う」のです。

ポイント株価が下がることは、バリュー投資家にとって「悲劇」ではなく「バーゲンセールの開催」。この感覚の転換がいちばん大事です。買いたい会社のリストを先に作っておけば、暴落の日に慌てずにすみます。

割安株の探し方 — PER・PBR・ROEを組み合わせるスクリーニング条件

ここからが実践です。SBI証券や楽天証券のスクリーニング機能(銘柄検索)を開いて、条件を入れるところから始めます。コツは、1つの指標だけで絞らず、3つ以上を掛け合わせること。

PERだけで絞ると「来期に大減益が決まっていて、市場がそれを織り込んでいるだけの会社」が並びます。PBRだけで絞ると「資産は持っているが1円も稼げない会社」が大量に出てきます。そこにROEという「稼ぐ力」の条件を重ねると、リストは一気に現実的になります。

グレアム自身は『賢明なる投資家』の中で、PERとPBRを掛けた数字が22.5以下、という簡便な目安を示しました。たとえばPER10倍×PBR1.0倍=10なら合格、PER25倍×PBR3.0倍=75なら不合格です。慣れないうちは、この1本の式で足切りするだけでも十分機能します。

グレアムのミックス係数 = PER(倍) × PBR(倍) ≦ 22.5
割安株スクリーニングの基本条件(初心者向けの出発点)
条件目安この条件で外れるもの
PER15倍以下1年分の利益に対して株価が高すぎる会社
PBR1.5倍以下持っている純資産に対して株価が高すぎる会社
ROE8%以上資産はあるが、それを使って稼げていない会社
自己資本比率40%以上借金が重く、不況を耐えきれない可能性がある会社
配当利回り2.5%以上株主還元にまったく関心のない会社
条件を足すと、何社まで絞れる?東証には4,000社近くが上場しています。PER15倍以下だけなら1,000社以上が残ってしまい、とても読み切れません。そこにPBR1.5倍以下とROE8%以上を重ねると数百社に、さらに自己資本比率40%以上を足すとおおむね100社前後まで落ちます。ここまで来れば、1社ずつ決算短信を開ける数です。

実践: 割安株を買うまでの3ステップ

スクリーニングで候補が出たら、次の3ステップです。ここを飛ばして「安いから買う」をやると、たいてい失敗します。慣れれば1銘柄あたり30分ほどで終わります。

とくに②を省略しないでください。市場が知っている悪材料を自分だけ知らない状態で買うのが、初心者の最大の失敗パターンです。

割安株を買うまでの3ステップ
  • ① スクリーニングで候補を絞る: 上の条件で数十社まで絞る。このとき、リストが銀行株ばかりになっていないか業種の偏りを確認します。割安スクリーニングは金融・商社・鉄鋼に偏りやすい癖があります。
  • ② なぜ安いのかを1文で言えるまで調べる: 決算短信と適時開示に目を通し、安い理由を自分の言葉で説明してみます。訴訟・為替・一過性の減損といった一時的な悪材料なら買い場かもしれません。市場そのものが縮んでいる構造的な衰退なら見送りです。
  • ③ 分散して、待つ: 確信があっても1銘柄に資金を集中させない。5〜10銘柄、業種も3つ以上に分けます。買ったあとは配当を受け取りながら、市場が見直してくれるまで2〜3年待つつもりで構えます。

バリュー投資の落とし穴 — 「安い」まま10年動かないバリュートラップ

バリュー投資の最大の敵は、暴落ではありません。「安いまま、何も起こらない」ことです。これをバリュートラップ(割安の罠)と呼びます。

PBR0.5倍、PER8倍、配当利回り4%。数字だけ見れば魅力的でも、その会社の属する市場が毎年縮んでいて、経営陣にも株主還元の意思がなければ、株価は10年たっても0.5倍のままです。安いのには理由がある——バリュー投資でいちばん高くつく授業料は、この一言を軽く見たときに払うことになります。

もうひとつの弱点は、相場全体との相性です。1990年代後半のIT相場や2010年代の米国市場のように、グロース株がバリュー株を長期にわたって上回った局面は何度もありました。10年近く「自分だけ取り残されている」と感じる時期があり得る、というのは知っておいたほうがいいです。

そして地味に効くのが孤独さ。バリュー投資は、みんなが悲観しているものを買う手法です。買った直後にさらに下がることは日常茶飯事で、その間、周囲の誰も賛成してくれません。

バリュー投資の3つの弱点①割安が解消されるまで時間がかかる(2〜3年は普通、5年以上のこともある) ②上昇相場では成長株に大きく見劣りする ③下落局面で買うため、買った直後にさらに下がることが多い。短期で結果を求める人、含み損に耐えられない人には向きません。

バリュー投資とグロース・インデックス・高配当の違い

投資手法を選ぶとき、バリュー投資はどこに位置するのか。ほかの3つと並べると輪郭がはっきりします。

いちばん近いのは高配当株投資です。どちらも「割安に放置された成熟企業」を買うことが多く、スクリーニング条件もかなり重なります。違うのは目的で、バリュー投資は株価が価値に戻る値上がり益をねらい、高配当株投資は配当という現金の受け取りをねらいます。だから高配当株投資は株価が上がらなくても成立しますが、バリュー投資は上がらないと報われません。

正反対なのがグロース投資です。グロース投資はPER40倍でも「5年後の利益で見れば安い」と考えますが、バリュー投資は「その5年後の予想が外れたら?」と考えます。同じ株を見ても、片方は未来の利益を、片方はいまの資産と利益を根拠にする。世界の見え方がまるで違います。

インデックス投資は、そもそも銘柄を選びません。市場全体を丸ごと買うので、割安株も割高株も一緒に持ちます。手間もリスクもいちばん小さいかわりに、市場平均を超えることは原理的にありません。バリュー投資は、その平均を超えたい人が手間をかけて挑む手法だと考えてください。

バリュー投資から見た、ほかの3手法との違い
手法何を根拠に買う?バリュー投資との関係
バリュー投資いまの利益・資産に対する株価の安さPER・PBR・ROEで割安を探す。買値がすべて
グロース投資将来の売上・利益の伸び判断の根拠が正反対。高いPERを許容するかで分かれる
高配当株投資配当利回りと配当の持続力対象銘柄が最も近い。値上がり益か現金収入かの違い
インデックス投資市場全体の長期的な成長銘柄を選ばない。バリュー投資はこの平均を超えるための手間
4つは択一ではありません現実的な落としどころはコア・サテライトです。資産の7〜8割をインデックス投資に置き、残りの2〜3割でバリュー株を探す。これなら判断を間違えても資産全体は大きく傷まず、しかも自分で選ぶ楽しさと学びは手に入ります。

まとめ

価値と値段は別物。市場の気分に付き合わず、安全余裕率を確保して買い、じっくり待つ。地味ですが、100年にわたって有効性が確認されてきた、初心者がいちばん再現しやすい投資の型です。

探し方はシンプルです。PER15倍以下、PBR1.5倍以下、ROE8%以上でスクリーニングし、なぜ安いのかを1文で説明できるまで調べ、5〜10銘柄に分けて買う。この手順を守るだけで、バリュートラップの多くは避けられます。

そして、うまくいかない時期が数年続くことを最初から織り込んでおくこと。土台をインデックス投資に置いておけば、その数年も落ち着いて待てます。まずは気になる会社のPERとPBRを、同業3社と並べて見るところから始めてみてください。

よくある質問

バリュー投資とは何ですか?

会社の本来の価値より安い値段で株を買い、株価が価値に追いつくのを待つ投資手法です。ベンジャミン・グレアムが1930年代に体系化し、ウォーレン・バフェットが発展させました。PERやPBRといった指標で「利益や資産に対して株価が安い会社」を探し、見積もりが多少外れても損しない値段まで待って買うのが基本の型です。

割安株はどうやって探せばいいですか?

証券会社のスクリーニング機能で、PER15倍以下・PBR1.5倍以下・ROE8%以上・自己資本比率40%以上といった条件を掛け合わせるのが出発点です。1つの指標だけで絞ると、赤字寸前の会社や稼ぐ力のない会社ばかりが並びます。候補が数十社まで絞れたら、決算短信を読んで「なぜ安いのか」を確認してください。

バリュー株とグロース株の違いは何ですか?

買う根拠が正反対です。バリュー株は「いまの利益や資産に対して株価が安い」ことを根拠に買い、PER15倍以下・PBR1倍前後の成熟企業が中心になります。グロース株は「将来の利益が何倍にもなる」ことを根拠に買い、PER40倍を超えても成立します。バリューは値段、グロースは成長率を見ている、と覚えると混乱しません。

バリュー投資のデメリットは何ですか?

結果が出るまで時間がかかることです。割安が解消されるのに2〜3年、長ければ5年以上かかることもあり、その間ずっと含み損ということも珍しくありません。また上昇相場では成長株に大きく見劣りします。さらに「安いまま10年動かない」バリュートラップに捕まるリスクもあり、短期で成果を求める人には向きません。

バリュー投資は初心者でもできますか?

できます。むしろ初心者に再現しやすい手法です。判断の根拠がPERやPBRといった公表済みの数字なので、勘や相場観に頼らずに済むからです。ただし資産の全額を投じるのはおすすめしません。7〜8割をインデックス投資の積立に置き、残りの2〜3割で5〜10銘柄に分けて始めると、失敗しても学習コストで済みます。

バリュー投資はいくらから始められますか?

単元未満株(1株単位)のサービスを使えば、数百円から始められます。主要ネット証券の多くが1株から買える仕組みを用意しており、5,000円ずつ10銘柄に分けるといった買い方も可能です。100株単位でそろえようとすると1銘柄で数十万円かかることもあるため、資金が少ないうちは1株単位で分散するほうが現実的です。

このテーマをもっと深めるなら

おすすめ本の一覧では、 お金の基礎から株式投資・ファイナンス・経営戦略まで26冊をジャンル別に紹介しています。

あわせて読みたい