PBRとは? — 会社の「持ち物」と株価を比べるモノサシ

PBR(Price Book-value Ratio・株価純資産倍率)は、「いまの株価は、その会社の純資産(持ち物から借金を引いた正味の財産)の何倍か」を表す数字です。読み方は「ピー・ビー・アール」。証券アプリの銘柄ページで、たいていPERのすぐ隣に並んでいます。

たとえるなら、中に1万円札が入った財布が売られているようなもの。財布ごと8,000円で買えるなら、それだけで2,000円おトクですよね。これが「PBR0.8倍」の状態です。逆に1万円入りの財布に1万5,000円の値札がついていれば「PBR1.5倍」で、中身より高い値段を払っていることになります。

ここでいう「財布の中身」が純資産です。会社の全財産(総資産)から、銀行への借入金などの負債を引いた残りで、貸借対照表(バランスシート)の右下に載っています。工場も現金も在庫も、借金を返したあとに株主のものとして残る分だけがカウントされる、と考えてください。PERが「1年でいくら稼ぐか」というフローで測るのに対し、PBRは「いまいくら持っているか」というストックで測ります。

PBR(倍) = 株価 ÷ 1株あたり純資産(BPS)
計算してみよう株価1,600円、1株あたり純資産(BPS)2,000円の会社 → 1,600 ÷ 2,000 = PBR0.8倍。会社の帳簿上の財産より2割引きで株が買える計算です。もしこの会社の株を100株(16万円)買えば、帳簿の上では20万円分の財産を持つ株主になる、というイメージになります。

BPSとは? — PBRの分母になる「1株あたり純資産」

PBRの式に出てきたBPS(Book-value Per Share・1株あたり純資産)は、会社の正味の財産を発行済株式数で割った金額です。読み方は「ビー・ピー・エス」。純資産1,000億円の会社が1億株を発行していれば、BPSは1,000円になります。

BPSは「もし会社をいま解散したら、株主に1株あたりいくら返ってくるか」の理論値と説明されます。だからこそ、株価がBPSを下回っている状態=PBR1倍割れが「帳簿上の財産より安く売られている」と読めるわけです。株価とBPSを直接くらべた比率がPBR、と考えると2つの関係がすっきりします。

よく対で語られるEPS(1株あたり利益)との違いは、フローとストックの違いです。EPSが「今年いくら稼いだか」という1年間の流れを表すのに対し、BPSは「これまでいくら積み上げたか」という蓄えを表します。利益のうち配当に回さなかった分(内部留保)は純資産に積み上がるので、健全に経営されている会社のBPSは年々ゆっくり増えていきます。BPSが毎年着実に増えているかは、地味ですが良い会社を見分けるチェックポイントです。

BPS(円) = 純資産 ÷ 発行済株式数
BPSの「中身」まで見るBPSに含まれる純資産は、現金や不動産だけでなく、のれん(買収で払った上乗せ代金)のような換金しづらい資産も含みます。BPSが高くても中身が空洞化しているケースがあるため、割安株を探すときはBPSの水準だけでなく、自己資本比率やROEとあわせて確認してください。

PBR1倍割れとは? — 「解散価値」を下回るという意味

PBR1倍ちょうどの状態は、「会社をいま解散して、全財産を売り払って借金を返し、残りを株主に配ったら、ちょうど株価と同じ金額になる」ラインです。この1倍のラインを解散価値と呼びます。

だからPBR1倍未満は理論上、「事業を続けるより、いま解散して財産を配ったほうが株主は得」という、少し不名誉な評価を市場から受けている状態とも言えます。せっかく工場や店舗を動かして商売をしているのに、その商売がむしろ財産を目減りさせていると見られている、ということです。

ただし、これはあくまで帳簿の上の話だという点は押さえておいてください。実際に会社をたたむとなれば、工場や機械が帳簿の値段どおりに売れる保証はありませんし、在庫は投げ売りになり、従業員への退職金も発生します。「PBR0.8倍だから2割の値引き分がそのまま自分のもの」とはならないのが現実です。

注意PBRの分母である純資産は「帳簿上の価値(簿価)」です。何十年も前に買った土地が今の相場よりずっと安い金額で計上されていることもあれば、買収で積み上がった のれん のように、実態より大きく見えている資産もあります。1倍割れ=確実にお得、ではありません。

PBRは何倍が目安? — 業種別の水準早見表

「何倍なら割安なの?」という質問には、まず「1倍が節目」と答えるのが出発点です。日本株全体の平均PBRは長らく1倍台前半で推移してきました。米国株の平均が3〜4倍あたりで動いてきたことと比べると、日本株全体がかなり安く放置されてきたことがわかります。

ただしPERと同じで、業種によって「ふつうの水準」はまるで違います。銀行や鉄鋼のように、巨額の資産を抱えて商売する業種はPBRが低く出やすい。逆にソフトウェアやコンサルティングのように、めぼしい資産が人材とノウハウしかない業種は、そもそも純資産が小さいのでPBRが高く出ます。

つまりPBR0.6倍の銀行株とPBR0.6倍のIT企業では、意味がまったく違います。前者は「業界の平常運転」、後者は「何かが起きているかもしれない水準」。PBRは必ず同業他社どうし、あるいはその会社自身の過去のレンジと比べて判断してください。

初心者のうちは「1倍未満なら平均より安い、0.5倍を切っていたら理由を必ず調べる、3倍を超えていたら期待がかなり先取りされている」の3段階だけ覚えておけば十分です。

業種ごとのPBRの「ふつうの水準」ざっくり早見表(あくまで目安です)
業種の例PBRの目安なぜその水準になる?
銀行・地方銀行0.3〜0.8倍巨額の資産を抱える一方でROEが低く、稼ぐ力に対して財産が大きすぎる
鉄鋼・海運・不動産0.5〜1.2倍工場や船、土地など重い資産を持つ。景気で業績が振れるぶん評価も慎重
自動車・商社0.7〜1.5倍資産は重いが世界で稼ぐ力もあり、1倍前後をはさんで動きやすい
食品・医薬・日用品1.5〜3倍ブランドや処方箋のような帳簿に載らない強みが株価に上乗せされる
IT・ソフトウェア3〜10倍超そもそも純資産が小さく、将来の利益成長への期待が株価の大部分を占める

東証の「PBR1倍割れ改善要請」で何が変わった?

2023年、東京証券取引所がプライム市場・スタンダード市場の上場企業に対して、「資本コストや株価を意識した経営」を実践するよう要請しました。とくにPBRが1倍を下回っている会社には、その原因の分析と改善策の開示を求めるという、かなり踏み込んだ内容でした。

背景にあったのは、日本企業が長年ため込んできた現金の問題です。稼いだ利益を配当にも投資にも回さず現預金として抱え込むと、純資産だけがふくらんでROE(稼ぐ力)は下がり、PBRは1倍に近づいていきます。財布は分厚いのに、そのお金がなにも生んでいない状態です。

この要請以降、増配、自社株買い、政策保有株(取引先との持ち合い株)の売却といった株主還元の動きが目に見えて増えました。日本株のバリュー投資が世界から注目されている理由のひとつが、この「余った財産を株主に返す流れ」です。PBR1倍割れの銘柄を見つけたら、決算説明資料やIRページに「資本効率の改善」「株主還元方針」の記載があるかを確認してみてください。

見るべきは「安さ」より「動き」PBR0.7倍のまま10年動かない会社と、PBR0.7倍から株主還元強化を打ち出した会社では、その先がまったく違います。1倍割れという数字そのものより、会社が変わろうとしているかを見てください。

PBR1倍割れの落とし穴 — 安いのには理由がある

ではPBRが低い株を片っ端から買えば儲かるかというと、そう甘くはありません。PBRが低いのは「この会社は財産をうまく活かして稼げていない」と市場が判断しているからでもあります。よくある落とし穴を5つ挙げます。

PBRの5つの落とし穴
  • ① 万年割安(バリュートラップ): 成長が止まり、株主還元にも消極的な会社は、10年単位でPBR0.5倍前後に貼りついたまま動かないことがあります。割安だけれど、誰も買いに来ません。
  • ② 簿価と実態のズレ: 昔から持っている土地は取得時の価格で載っているため実態より安く、逆に高値で買収した会社の のれん は、事業が失敗すれば一気に減損されて純資産が吹き飛びます。
  • ③ 赤字が純資産を削る: 赤字を出し続けると純資産そのものが毎年減っていきます。株価が下がってPBRが低く見えていても、翌年には分母のBPSも下がるため、いつまでも「割安」から抜け出せません。
  • ④ 自社株買いでPBRは上がる: 自社株買いをすると自己資本が減るので、株価が同じでもPBRは上がります。株主還元をがんばっている会社ほどPBRの数字だけは割高に見える、という逆転が起きます。
  • ⑤ 業種を無視した比較: 銀行とソフトウェア企業のPBRを並べても意味がありません。比べるのは必ず同じ業種のなかで。
債務超過には手を出さない赤字が積み重なって純資産がマイナスになった状態を債務超過といいます。この場合PBRは計算できず、証券サイトでは「—」と表示されます。上場廃止基準にも関わるため、初心者のうちは表示されない銘柄は避けるのが無難です。

PBRとPER・ROEの関係 — 実は3つはつながっている

PBRとPER、ROEはバラバラの指標に見えますが、実はきれいな式でつながっています。PBRは、PERとROEを掛け合わせたものと一致するのです。

この式が意味するのはこういうことです。PBRが1倍を割っているということは、①ROEが低い(財産を活かして稼げていない)か、②PERが低い(将来の利益に期待されていない)か、そのどちらか、あるいは両方だということ。1倍割れの原因はこの2つしかありません。

たとえばROE8%の会社にPER12.5倍がつけば、0.08 × 12.5 = 1倍でちょうど解散価値。ROEが5%しかなければ、同じPER12.5倍でもPBRは0.625倍まで下がります。「ROEが低い会社はPBRも低くなる」というのは、感覚ではなく計算上そうなる関係なのです。

そこで登場するのが相棒のROE(稼ぐ力)です。「PBRが低い×ROEがそこそこ高い」なら、稼ぐ力があるのに見過ごされている可能性あり。「PBRが低い×ROEも低い」なら、安いなりの理由がある万年割安株かもしれません。

PBR = PER × ROE(ROEは%ではなく小数で計算)
PER・PBR・ROEの役割の違い
指標何と株価を比べる?答えてくれる質問
PER1年間の利益(フロー)この会社の稼ぎに対して、株価は高すぎないか?
PBRいま持っている純資産(ストック)この会社の財産に対して、株価は高すぎないか?
ROE株主のお金と利益の比率そもそもこの会社は、財産をうまく使って稼げているのか?

実際の使い方 — 3ステップのチェック手順

PBRを実戦で使うときは、次の3ステップで見るとブレません。証券アプリの銘柄ページには、たいていPBRと一緒に「同業種平均」も出ているので、まずはそこを見比べるだけでも十分なスタートになります。

慣れてきたら純資産の中身まで見てみてください。同じPBR0.7倍でも、中身が現金や上場株式なら実態に近く、老朽化した工場や在庫が中心ならその簿価は割り引いて考える必要があります。

PBRチェックの3ステップ
  • ① 同業3〜5社と並べる: 同じ業種のPBRを並べ、1社だけ極端に低ければ、そこに理由があるはずです。
  • ② 過去のレンジと比べる: その会社の過去5年のPBRレンジ(たとえば0.6〜1.1倍)のどのあたりに今いるかを確認します。下限に近ければ割安ぎみ。
  • ③ ROEと自己資本比率をセットで見る: ROE8%以上なら稼ぐ力あり、自己資本比率40%以上なら財務も健全。この2つが伴ってはじめて、PBRの低さが「お宝」の候補になります。
黄金の組み合わせPBR1倍未満 × ROE8%以上 — バリュー投資の入口として最も定番のスクリーニング条件です。ここにPER15倍以下を足せば、さらに絞り込めます。当サイトの監視銘柄ページで、この3つを並べて確認できます。

まとめ

PBRは会社の財産と株価を比べるモノサシで、1倍が解散価値の節目です。1倍割れは「事業を続けるより解散したほうが得」と市場に見られている状態で、東証の改善要請以降、こうした会社が増配や自社株買いに動く流れが続いています。

ただし1倍割れがそのままお宝を意味するわけではありません。簿価と実態のズレ、万年割安、赤字による純資産の目減り——安いのには必ず理由があります。PBR = PER × ROE という関係を思い出せば、1倍割れの原因は「稼ぐ力が弱い」か「期待されていない」かのどちらかだとわかります。

まずは気になる銘柄のPBRを、同業3社と並べて見るところから始めてみましょう。そこにROEを1列足すだけで、「安いだけの株」と「安くて稼げる株」がはっきり分かれて見えてきます。

よくある質問

PBR1倍割れとはどういう意味ですか?

株価が、その会社の1株あたり純資産(解散価値)を下回っている状態です。理論上は「会社をいま解散して財産を株主に配ったほうが、株を持ち続けるより得」という評価を市場から受けていることになります。ただし純資産は帳簿上の価値なので、実際に解散して簿価どおり換金できるとは限りません。割安のサインではありますが、そのまま利益が保証されるわけではない点に注意してください。

BPSとは何ですか?

BPS(Book-value Per Share・1株あたり純資産)は、会社の正味の財産である純資産を発行済株式数で割った金額です。純資産1,000億円で1億株を発行している会社なら、BPSは1,000円になります。「会社をいま解散したら株主に1株あたりいくら返ってくるか」の理論値にあたり、株価をこのBPSで割った比率がPBRです。株価がBPSを下回っている状態がPBR1倍割れです。

BPSとEPSの違いは何ですか?

BPSはストック(蓄え)、EPSはフロー(流れ)を表します。EPS(1株あたり利益)が「今年1年でいくら稼いだか」を示すのに対し、BPS(1株あたり純資産)は「これまでにいくら財産を積み上げたか」を示します。利益のうち配当に回さなかった分は純資産に積み上がるため、健全な会社のBPSは年々ゆっくり増えていきます。株価をEPSで割ればPER、BPSで割ればPBRになります。

PBRは何倍以下なら割安の目安ですか?

1倍が最初の節目です。日本株全体の平均は長らく1倍台前半で推移してきたため、1倍を下回れば平均比では割安といえます。ただし業種差が大きく、銀行は0.3〜0.8倍が普通、IT・ソフトウェアは3倍を超えるのが普通です。同じ業種の3〜5社と並べ、その会社自身の過去5年のレンジのどこにいるかを見て判断してください。

PBRとPERの違いは何ですか?

比べる対象が違います。PERは会社が1年で稼ぐ利益(フロー)と株価を比べ、稼ぐ力に対する割安さを見ます。PBRは会社がいま持っている純資産(ストック)と株価を比べ、財産に対する割安さを見ます。両者はPBR = PER × ROEという式でつながっており、PBRが低い原因は「PERが低い」か「ROEが低い」かのどちらかに分解できます。

PBR1倍割れの株を買えば儲かりますか?

そうとは限りません。PBRが低いのは、市場が「この会社は財産をうまく活かして稼げていない」と判断しているからでもあります。成長が止まり株主還元にも消極的な会社は、10年単位でPBR0.5倍前後に貼りついたまま動かないことがあり、これをバリュートラップと呼びます。ROEが8%以上あるか、株主還元や資本効率の改善策を開示しているかを確認してから検討してください。

PBRが「—」と表示されて計算できないのはなぜですか?

純資産がマイナス、つまり債務超過になっている可能性が高いです。赤字が積み重なって借金が全財産を上回ると、1株あたり純資産(BPS)がマイナスになり、PBRは数字として意味をなさなくなります。債務超過は上場廃止の基準にも関わる深刻な状態なので、初心者のうちはPBRが表示されない銘柄は避けるのが無難です。

東証のPBR1倍割れ改善要請とは何ですか?

2023年に東京証券取引所が上場企業へ出した、「資本コストや株価を意識した経営」を求める要請です。とくにPBRが1倍を下回る会社には、原因の分析と改善策の開示を求めました。これを受けて増配、自社株買い、政策保有株の売却といった株主還元の動きが広がり、日本株が海外投資家から注目される一因になりました。

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