キャッシュフロー計算書(CF)とは? — 利益は意見、現金は事実
キャッシュフロー計算書(CF: Cash Flow statement)は、1年間で現金が実際にいくら入って、いくら出ていったかだけを記録した書類です。財務三表のうち、いちばん最後に制度化された1枚で、日本の上場企業に義務づけられたのは2000年3月期からと比較的新しい書類です。
会計の世界には「利益は意見、キャッシュは事実」という有名な言葉があります。利益は会計ルールの解釈次第で多少化粧できますが、銀行口座の残高は嘘をつけません。その現金の動きだけを追いかけたのがCF計算書です。
損益計算書(PL)が「儲かったか」を、貸借対照表(BS)が「頑丈か」を教えてくれるのに対し、CFは「生きているか」を教えてくれます。会社が潰れるのは赤字だからではなく、現金が尽きたときだからです。
なぜ利益と現金はズレる? — 黒字倒産の仕組み
「1年で利益10億円」の会社の金庫に、10億円が増えているとは限りません。商品を掛け売り(ツケ)で売れば、売上と利益は計上されても現金はまだ入っていない。逆に、工場を建てて現金が大きく出ていっても、費用としては数年に分けて計上されます(減価償却)。
この時間差が命取りになることがあります。具体例で見てみましょう。1台100万円の機械を10台、掛けで売ったとします。売上1,000万円、原価700万円なので、PL上は300万円の黒字です。ところが仕入代金700万円の支払いは翌月末、売上代金1,000万円の入金は3ヶ月後。翌月末に手元の現金が700万円なければ、300万円の黒字を出しながら支払いができず、会社は止まります。
これが黒字倒産です。決算書の上ではむしろ好調に見えるので、PLだけを見ていると絶対に気づけません。だからCF計算書が必要なのです。
- ① 売上が急に伸びたとき: 仕入れや人件費の支払いが先、入金は後。成長企業ほど現金が細ります。売上が2倍になれば、必要な運転資金もおおむね2倍必要です。
- ② 在庫が積み上がったとき: 商品を仕入れた時点で現金は出ていきますが、売れるまで費用にも売上にもなりません。棚卸資産だけが増えている会社は要注意です。
- ③ 大型の設備投資をしたとき: 100億円の工場を建てれば現金は一度に100億円出ますが、PLには減価償却費として10年で10億円ずつしか乗りません。利益は減らないのに現金は激減します。
営業CF・投資CF・財務CFの違いは? — 3つの区分
CF計算書は、現金の動きを性格ごとに3つに分けて記録します。この3つの意味を押さえるのが第一歩です。
① 営業CFは、本業の商売でいくら現金を稼いだか。仕入れや人件費を払ったあとに、実際に手元に残った現金です。ここが安定してプラスであることが、健全な会社の大前提になります。
② 投資CFは、工場・設備・買収・有価証券などにいくら使ったか。未来のためにお金を出しているので、成長している会社は通常マイナスです。プラスになっている場合は、資産を売って現金を作っている可能性があります。
③ 財務CFは、借入・返済・増資・配当・自社株買いといった資金のやりくり。借金を返して配当を払っている成熟企業はマイナスが普通で、プラスなら新たにお金を集めている状態です。
架空の会社「サンプル製作所」(売上高1,000億円、当期純利益67億円)の数字で並べてみます。
注目したいのは、当期純利益67億円に対して営業CFが130億円あること。現金の稼ぎが利益を上回っており、減価償却費の大きい製造業の典型的な形です。逆に純利益よりも営業CFがずっと小さい、あるいはマイナスの会社は、利益が現金になっていないサイン。この2つを並べる習慣をつけてください。
| 区分 | 何を表す? | ふつうの符号 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 営業CF | 本業の商売でいくら現金を稼いだか | プラスが大前提 | +130億円 |
| 投資CF | 設備・工場・買収・有価証券にいくら使ったか | 投資している会社はマイナス | −80億円 |
| 財務CF | 借入・返済・増資・配当・自社株買いなど資金のやりくり | 成熟企業はマイナス | −40億円 |
| 現金の増減 | 3つの合計。BSの現金及び預金の増減と一致する | — | +10億円(期首190億円→期末200億円) |
3つのCFの組み合わせ8パターン — 符号で会社を読み解く
ここからがCF計算書のいちばん面白いところです。営業・投資・財務の3つには、それぞれプラスとマイナスがあるので、組み合わせは2×2×2で8通り。この符号の並びを見るだけで、その会社がいまどんな局面にいるかがかなりわかります。
細かい金額を読む前に、まず符号を3つ並べてみてください。それだけで会社のストーリーが浮かび上がります。
| 営業 / 投資 / 財務 | どんな会社? | 読み解き方 |
|---|---|---|
| + / − / − | 優良・成熟型(黄金パターン) | 本業でしっかり稼ぎ、その範囲で未来に投資し、余りで借金返済と株主還元。いちばん健全な形で、長く続いている会社はまず安心できます |
| + / − / + | 積極成長型 | 本業でも稼ぎ、さらに借入や増資も使って大きく投資している段階。伸び盛りの会社に多い形ですが、投資が実らなければ借金だけが残ります |
| + / + / − | リストラ・選択と集中型 | 本業は回っているが、事業や資産を売って借金を返している。身軽になる途中なのか、じり貧の縮小なのかは、営業CFが増えているかで判断します |
| + / + / + | 現金備蓄型 | 稼ぎつつ資産も売り、さらに資金調達もして現金を積んでいる状態。大型買収の準備か、先行きに備えているか。何のために貯めているかを開示資料で確認します |
| − / − / + | 先行投資型(新興・急成長) | 本業はまだ現金を生めず、外から調達したお金で投資している段階。創業期のベンチャーでは自然な形ですが、資金調達が止まると一気に行き詰まります |
| − / + / + | 危険信号(自転車操業) | 本業で現金が減り、資産を売り、さらに借りてしのいでいる形。8パターンの中でもっとも警戒したい並びで、手元現金があと何ヶ月分かの確認が必要です |
| − / + / − | 縮小・返済型 | 本業が現金を生めないなか、資産を売って借金を返している。事業を畳んでいく、あるいは大幅に縮小している途中の姿です |
| − / − / − | 蓄えの食いつぶし | 本業もマイナスなのに投資も返済も続け、過去にためた現金を取り崩している状態。一時的な要因なのか、現金残高がどれだけ持つのかを必ず確認します |
フリーキャッシュフロー(FCF)とは? — 会社が自由に使えるお金
営業CFから、事業を維持・成長させるための投資を引いて残る現金をフリーキャッシュフロー(FCF)と呼びます。会社が自由に使えるお金で、配当・自社株買い・借金返済・新規事業、すべての原資はここから出ます。
サンプル製作所なら、営業CF130億円 + 投資CF−80億円 = FCF50億円。この50億円の中から配当20億円と借入返済20億円をまかない、残り10億円が現金として積み上がった、という流れです。配当がFCFの範囲におさまっているかは、配当の持続性を見るうえで重要なチェックポイントになります。
多くの著名投資家が最重視するのもこのFCFです。利益がいくら立派でも、FCFが恒常的にマイナスの会社は、外からお金を調達し続けないと回らない自転車操業かもしれません。逆に毎年潤沢なFCFを生む会社は、多少の逆風ではびくともしません。
ただし単年のマイナスで慌てないでください。大型の工場建設や買収があった年はFCFがマイナスになって当然です。3〜5年の合計で見て、プラスを積み上げられているかで判断しましょう。
営業CFの中身の見方 — 減価償却費と運転資本
営業CFの欄を開くと、いちばん上に「税金等調整前当期純利益」があり、そこから項目を足し引きして現金ベースに直していく形になっています(間接法と呼ばれます)。ここで足し引きされる主役は2つです。
1つ目は減価償却費。工場や機械の価値の目減りを費用として計上したものですが、現金は出ていっていません。だから利益に足し戻します。サンプル製作所は純利益67億円に減価償却費60億円が加わることで、営業CFが130億円まで膨らみました。設備の重い製造業ほど、営業CFは利益より大きくなります。
2つ目は運転資本の増減です。売掛金が増えれば「まだ回収していないお金」が増えたのでマイナス、在庫が増えても現金が寝るのでマイナス、逆に買掛金が増えれば「まだ払っていないお金」なのでプラスになります。急成長中の会社の営業CFが伸びない原因は、たいていここにあります。
つまり営業CFの内訳を見れば、利益が現金に変わらない理由まで特定できます。売掛金の増加が原因なら回収に問題があるかもしれないし、在庫の増加が原因なら売れ残りを抱えている可能性がある、という具合です。
キャッシュフロー計算書の落とし穴
CFは嘘をつきにくい書類ですが、読み方には注意点があります。3つ挙げます。
① 営業CFのプラスにも中身がある: 支払いを翌期に先送りしたり、売掛金を金融機関に売って早く現金化(ファクタリング)したりすれば、その期の営業CFは一時的に良く見えます。1年だけのプラスでなく、5年の推移で判断してください。
② 投資CFのプラスは手放しで喜べない: 投資CFがプラスなら現金は増えますが、それは工場や保有株を売った結果かもしれません。将来の稼ぐ力を切り売りしていないか、内訳を確認しましょう。
③ 四半期では出ない会社がある: キャッシュフロー計算書は四半期ごとの開示が省略されることがあり、中間期と本決算でしか出さない会社もあります。四半期の決算短信に見当たらなくても異常ではありません。
まとめ
キャッシュフロー計算書は、現金の動きだけを記録した嘘のつけない家計簿。会社が潰れるのは赤字だからではなく現金が尽きたときで、その危険を教えてくれる唯一の書類です。
見方の中心は3つの符号です。営業CFがプラスか、そして営業「+」・投資「−」・財務「−」という黄金パターンになっているか。8パターンの並びを覚えておけば、その会社が成長期なのか、成熟期なのか、それとも苦しいのかが一目でわかります。
あとはフリーキャッシュフローを生めているかを3〜5年の合計で確認すれば十分です。まずは気になる会社の決算短信でCF計算書のページを開き、3つの数字の符号だけ書き出してみてください。損益計算書・貸借対照表と突き合わせれば、財務三表がそろって会社の生命力が見えてきます。
よくある質問
営業CF・投資CF・財務CFの違いは何ですか?
現金の動きを性格別に分けたものです。営業CFは本業の商売で稼いだ現金、投資CFは設備・工場・買収・有価証券に使った現金、財務CFは借入・返済・増資・配当など資金のやりくりを表します。健全な会社は営業CFがプラス、投資CFがマイナス(未来に投資している)、財務CFがマイナス(返済と株主還元をしている)という並びになります。
黒字倒産とはどういう仕組みで起きるのですか?
利益が出ていても手元の現金が尽きると倒産します。たとえば掛けで1,000万円売って原価700万円なら帳簿上は300万円の黒字ですが、仕入代金の支払いが翌月末、売上の入金が3ヶ月後なら、翌月末に700万円の現金が必要です。用意できなければ黒字のまま資金が回らなくなります。損益計算書だけでは気づけないため、営業キャッシュフローの確認が欠かせません。
営業キャッシュフローがマイナスの会社は危ないですか?
本業が現金を生めていない状態なので、原則として警戒すべきサインです。ただし創業まもない急成長企業では、仕入れや人件費が先行してマイナスになることがあり、それ自体は異常ではありません。判断の分かれ目は、手元現金が何ヶ月分あるか、資金調達の当てがあるか、そしてマイナスが年々縮小しているかです。3年続けて拡大しているなら要注意です。
投資キャッシュフローがプラスなのは良いことですか?
必ずしも良いとは限りません。投資CFがプラスということは、工場や保有株式などの資産を売って現金を作ったという意味です。不採算事業の整理なら前向きですが、資金繰りのために稼ぎ頭を手放している場合もあります。営業CFがマイナスで投資CFだけがプラスの会社は、将来の稼ぐ力を切り売りしている可能性があるため、内訳を確認してください。
フリーキャッシュフローとは何ですか?
営業CFと投資CFを足したもので、会社が自由に使える現金を指します。配当・自社株買い・借金返済・新規事業の原資はすべてここから出ます。営業CF130億円、投資CF−80億円ならFCFは50億円。単年で大型投資があればマイナスになるのは自然なので、3〜5年の合計でプラスを積み上げられているかを見るのが実用的です。
キャッシュフロー計算書はどこで見られますか?
決算短信の後半か、有価証券報告書の財務諸表のページに載っています。企業の公式サイトのIR(投資家向け情報)ページか、金融庁のEDINETから無料で読めます。証券アプリでも財務タブに営業CF・投資CF・財務CFの推移が載っていることが多いです。ただし四半期では開示が省略される場合があるため、確実に見たいなら本決算の資料を選んでください。
このテーマをもっと深めるなら
おすすめ本の一覧では、 お金の基礎から株式投資・ファイナンス・経営戦略まで26冊をジャンル別に紹介しています。