減価償却とは? — わかりやすく言うと「大きな買い物の分割払い」

減価償却(げんかしょうきゃく)は、工場・機械・トラック・建物など、長く使う高額なものを買ったとき、その代金を買った年に全額費用にするのではなく、使う年数に分けて少しずつ費用計上する会計ルールです。英語ではdepreciation(有形固定資産の場合)と呼ばれます。

1,000万円のトラックを買った運送会社を考えてみましょう。もし買った年に1,000万円を全額費用にすると、その年だけ大赤字で、翌年からは費用ゼロでトラックを使い放題。これでは毎年の成績が実態とズレてしまいます。トラックは何年も働いてくれるのだから、費用も使う年数に分けて毎年少しずつ——こう考えるのが減価償却です。

支払い方法の分割払いとは違うことに注意してください。お金を払うのは買った瞬間の1回だけ。分割されるのは「費用として計上するタイミング」であって、現金の動きではありません。ここが減価償却を難しく感じさせる最大の理由であり、同時にいちばん面白いポイントでもあります。

なお、土地は減価償却しません。使っても価値がすり減らないと考えるからです。同じ不動産でも、建物は償却する、土地はしない——貸借対照表を読むときに知っておくと役立つ区別です。

毎年の減価償却費 = 取得価額 ÷ 耐用年数(定額法の場合)

耐用年数は自分で決められない — 資産ごとの年数早見表

「何年に分けるか」を耐用年数(たいようねんすう)と言います。これは会社が好きに決められるものではなく、税法で資産の種類ごとに標準が定められています。会社によって恣意的に利益を作れないようにするためのルールです。

耐用年数が長いほど1年あたりの費用は小さくなり、短いほど1年あたりの負担が重くなります。だから、鉄筋コンクリートのビルを建てる会社と、4年で入れ替えるパソコンを買う会社では、同じ金額の投資でも決算への響き方がまったく違います。

主な資産の法定耐用年数(代表例。用途や構造で細かく分かれます)
資産耐用年数の目安1,000万円あたりの年間償却費(定額法)
パソコン4年250万円
サーバー5年200万円
社用車(普通乗用車)6年約167万円
軽自動車・トラック4〜5年200〜250万円
機械装置7〜10年程度約100〜143万円
鉄骨造の建物19〜38年(骨格材の厚さで変わる)約26〜53万円
鉄筋コンクリート造の建物事務所50年・住宅47年約20〜21万円
土地償却しない0円(価値がすり減らないと考えるため)
ポイント設備の中身によって、投資が利益を押し下げる期間はまったく違います。データセンターに1,000億円投資した会社は数年で償却が終わって利益が急回復しますが、鉄道や不動産の投資は数十年かけてじわじわ効いてきます。「いま償却の山のどこにいるか」で決算の見え方が変わります。

定額法と定率法の違い — 同じトラックの5年間を数字で比べる

減価償却の計算方法には主に2種類あります。定額法(ていがくほう)は毎年同じ金額を費用にする方法。定率法(ていりつほう)は残っている帳簿価額に一定の率をかけるので、最初の年ほど費用が大きく、年を追うごとに小さくなる方法です。

言葉だけではピンとこないので、1,000万円のトラック(耐用年数5年)をまったく同じ条件で買った2社を、年ごとに並べてみます。定率法の償却率は0.400として計算しています。

表を見ると一目瞭然です。5年間の合計はどちらも1,000万円でぴったり同じ。違うのは「どの年にどれだけ費用を寄せるか」だけです。定率法を選んだ会社は1年目に400万円の費用が乗るので利益が小さく見え、5年目には108万円まで軽くなるので利益が大きく見えます。

日本の会社では、建物は定額法が義務づけられ、機械装置などは定額法・定率法を選択できるのが一般的です。だから同業他社どうしを比べるときも、償却方法が違えば同じ設備でも各年の費用は変わります。「利益が少ない」ではなく「償却を前倒ししているだけ」ということが実際に起こります。

1,000万円のトラック(耐用年数5年)を定額法と定率法で償却した場合
定額法の償却費定率法の償却費定率法の期末帳簿価額
1年目200万円400万円600万円
2年目200万円240万円360万円
3年目200万円144万円216万円
4年目200万円108万円108万円
5年目200万円108万円0円
5年合計1,000万円1,000万円
利益への影響を計算してみる償却前の利益が毎年500万円出るとします。定額法なら1年目の利益は500−200=300万円。定率法なら500−400=100万円で、3分の1になります。ところが5年目は定額法300万円に対し定率法は392万円。同じトラック、同じ稼ぎでも、決算書に出てくる利益はこれだけ違って見えるのです。

最大のポイント: 現金は出ていかない費用

減価償却費のいちばん大事な性質は、費用なのに現金は1円も出ていかないことです。現金が出ていったのは買った瞬間だけ。その後の毎年200万円は、帳簿の上での「費用の割り振り」にすぎません。

だから、減価償却費の大きい会社は「PLの利益は小さく見えるのに、現金はしっかり貯まる」という現象が起きます。キャッシュフロー計算書で営業CFが純利益より大きくなる主因はこれです。営業キャッシュフローは純利益からスタートして、現金が出ていっていない費用を足し戻す形で計算されるので、減価償却費はそのまま加算されます。

逆に言えば、利益が薄くても営業CFが厚い会社は、減価償却という「見えない稼ぎ」を持っているのかもしれません。損益計算書だけを見て「この会社は儲かっていない」と判断すると、設備産業の実力を大きく見誤ります。

ただし忘れてはいけないのは、設備はいつか更新が必要だということ。償却が終わったトラックは、いずれ買い替えなければ事業が回りません。減価償却費は「将来の設備更新のために積み立てているお金」に近い性格を持っていて、その分の現金は本来使ってはいけないもの、と考えると健全です。

PLとCFのズレを体感純利益50億円+減価償却費100億円の会社 → 現金ベースでは約150億円稼いでいる計算。PLだけ見ると地味でも、キャッシュ製造能力は純利益の3倍。設備産業にはこういう会社がよくあります。

EBITDAとは? — 償却の差を取り除いた「現金ベースの稼ぐ力」

ここまで読むと、「償却方法や耐用年数が違う会社を、どうやって比べればいいのか」という疑問が出てきます。その答えのひとつがEBITDA(イービットディーエー、またはイービットダー)です。

EBITDAは Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation and Amortization の略で、「利息・税金・減価償却費・のれん償却費を引く前の利益」という意味。実務では営業利益に減価償却費を足し戻すやり方が広く使われます。減価償却という会計上の判断が入る前の、現金ベースの稼ぐ力を見るための数字です。

たとえば営業利益が同じ100億円のA社とB社があったとして、A社の減価償却費が20億円、B社が200億円だとします。EBITDAで見るとA社は120億円、B社は300億円。B社は巨額の設備を抱えていて償却負担が重いだけで、現金を生み出す力はA社の2倍以上ある、と読めるわけです。

EBITDAは、設備産業(通信・電力・鉄道・半導体・データセンターなど)の比較や、M&Aで買収価格を決めるときによく使われます。「EV/EBITDA倍率が何倍か」という指標は、PERの設備産業版のような位置づけです。

とはいえEBITDAは万能ではありません。設備更新に必要なお金を無視した数字なので、これだけを見て「稼げている」と判断すると危険です。EBITDAが厚くても、それをそのまま設備更新に吐き出し続けなければ事業が維持できない会社もあります。

EBITDA(簡易版) = 営業利益 + 減価償却費(+のれん償却費)
注意EBITDAは「設備投資の負担をなかったことにした利益」でもあります。EBITDAが黒字でも、毎年それ以上の設備投資が必要な事業ならフリーキャッシュフローはマイナスです。EBITDAを見るときは、必ず投資キャッシュフローの金額とセットで確認してください。

投資家としての注目ポイント — 決算のどこを見るか

実際に決算を見るとき、減価償却まわりでチェックしたいのは次の3点です。減価償却費の金額は、キャッシュフロー計算書の営業活動の区分に「減価償却費」として単独で載っているので、そこを見るのがいちばん早道です。

証券アプリの銘柄ページからでもキャッシュフローの推移は確認できます。純利益の折れ線と営業CFの折れ線がどれだけ離れているかを見るだけでも、その会社が設備型なのか、身軽なビジネスなのかが感覚でつかめます。

減価償却まわりのチェック3点
  • ① 設備産業の決算は減価償却とセットで読む: 鉄道・電力・半導体・通信などは減価償却費が巨額です。大型投資の直後は償却負担で減益に見えますが、数年後に償却が終われば利益が急回復することも。
  • ② 減価償却費と設備投資額を比べる: 設備投資額が減価償却費を上回っていれば設備を増やしている拡大期、下回り続けていれば設備が縮んでいく縮小期のサインです。
  • ③ 償却が少なすぎる会社に注意: 古い設備を更新せず償却費を抑えて利益を出している会社は、いずれ大型投資のツケが回ってきます。投資CFが長年小さすぎる会社は、未来を食いつぶしている可能性も。

よくある勘違い — 減価償却でつまずく3つのポイント

① 「減価償却費が増えた=お金が減った」ではありません。現金の流出は購入時に済んでいます。減価償却費が増えたのは、過去に大きな投資をしたことの表れであって、その年に現金が出たわけではないのです。

② 「償却が終われば丸儲け」でもありません。帳簿価額がゼロになった設備は費用ゼロで使い続けられるので、確かに利益は増えます。ただし物理的には古くなっていて、故障リスクや効率の悪さを抱えています。償却切れ設備が多い会社は、いつか大型の更新投資が必要になります。

③ 「のれん償却も減価償却の一種」というのは半分正解です。英語ではdepreciation(有形固定資産)とamortization(無形資産・のれん)を区別します。日本の会計では、のれんや特許・ソフトウェアといった無形資産の償却も広い意味で減価償却として語られることが多いですが、のれんは国際会計基準(IFRS)では定期償却しないなど、扱いが異なる点に注意してください。

もうひとつ、減損(げんそん)と減価償却の違いも押さえておきましょう。減価償却は「予定どおりに費用を配分していく」平常運転の処理。減損は「その資産がもう予定どおり稼げないとわかったので、一気に価値を切り下げる」異常時の処理です。ニュースで「減損損失を計上」と出たら、後者のほうです。

覚えておきたい一言減価償却は「現金は出ていかないが、利益は減る」。設備投資は「現金は出ていくが、利益は減らない」。この2つは真逆の性質を持っています。損益計算書とキャッシュフロー計算書を別々に見る意味は、まさにここにあります。

まとめ

減価償却は大きな買い物を使う年数に分けて費用化する仕組みで、現金の出ていかない費用です。だからPLとCFはズレる。この一点を押さえるだけで、決算書の読み方は一段深くなります。

定額法と定率法では、5年間の合計は同じでも各年の費用がまったく違います。1,000万円のトラックなら1年目は200万円と400万円の差。同業比較のときは、この会計方針の違いが数字に効いていることを頭の片隅に置いてください。

そして償却の差を取り除いて比べたいときはEBITDA、設備が増えているか縮んでいるかを見たいときは設備投資額と減価償却費の比較。設備産業の決算やキャッシュフローの厚みを読むカギになる、会計理解の分水嶺です。気になる銘柄のキャッシュフロー計算書を開いて、純利益と減価償却費の大きさを比べるところから始めてみてください。

よくある質問

減価償却とは何ですか? わかりやすく教えてください。

機械や建物など長く使う高額なものを買ったとき、その代金を買った年に全額費用にせず、使う年数に分けて少しずつ費用にしていく会計ルールです。1,000万円のトラックを耐用年数5年で買えば、毎年200万円ずつ5年かけて費用にします。現金が出ていくのは買った瞬間だけで、その後の毎年の費用は帳簿上の割り振りにすぎません。

定額法と定率法の違いは何ですか?

毎年同じ金額を費用にするのが定額法、残っている帳簿価額に一定の率をかけるので最初の年ほど費用が大きくなるのが定率法です。1,000万円・耐用年数5年の設備なら、定額法は毎年200万円ずつ。定率法(償却率0.400)は1年目400万円、2年目240万円と減っていきます。5年間の合計はどちらも1,000万円で同じで、違うのはどの年に費用を寄せるかだけです。

減価償却費はなぜ営業キャッシュフローに足し戻されるのですか?

現金が出ていっていない費用だからです。営業キャッシュフローは純利益からスタートして、現金の動きを伴わない項目を調整して計算します。減価償却費は利益を減らしていますが現金は減らしていないので、足し戻して現金ベースの数字に直すわけです。この結果、設備の大きい会社では営業キャッシュフローが純利益を大きく上回ります。

EBITDAとは何ですか? 何のために使いますか?

利息・税金・減価償却費を差し引く前の利益で、実務では営業利益に減価償却費を足し戻して計算します。償却方法や耐用年数の違いを取り除いて、現金ベースの稼ぐ力を比べるための数字です。通信・電力・鉄道・半導体のような設備の重い業種の比較や、M&Aで買収価格を決める際によく使われます。ただし設備更新に必要なお金を無視した数字なので、投資キャッシュフローとセットで見る必要があります。

耐用年数は会社が自由に決められるのですか?

自由には決められません。税法で資産の種類ごとに法定耐用年数が定められていて、パソコンなら4年、サーバーなら5年、普通乗用車なら6年、鉄筋コンクリート造の建物なら事務所用50年・住宅用47年といった標準があります。会社が恣意的に耐用年数を伸ばして費用を小さく見せ、利益を作り出すことを防ぐためのルールです。ただし償却方法(定額法か定率法か)は、資産の種類によっては会社が選択できます。

減価償却と減損の違いは何ですか?

減価償却は、あらかじめ決めた年数に沿って計画的に費用を配分していく平常運転の処理です。一方の減損は、その資産がもう予定どおり稼げないと判明したときに、帳簿上の価値を一気に切り下げて損失を計上する異常時の処理です。減価償却は毎年少しずつ利益を押し下げますが、減損は単年で巨額の特別損失として利益を直撃するため、株価への影響もまったく異なります。

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