ROEとROAの決定的な違い — 「分母」に借金を含むかどうか

ROE(自己資本利益率)とROA(総資産利益率)は、どちらも「会社が預かったお金を使ってどれだけ効率よく利益を生み出したか」を測る収益性のモノサシです。分子はどちらも同じ「当期純利益」を使います。

決定的な違いは分母にあります。ROEは分母が「自己資本(株主から集めたお金+過去の利益の蓄積)」です。一方、ROAは分母が「総資産(自己資本に加えて、銀行からの借入金や社債などの『負債』も全部足したもの)」です。

つまり、ROEは「株主から預かったお金をどれだけ増やしたか(株主目線の効率)」を表し、ROAは「借金も含めて会社にあるすべての資産を使ってどれだけ稼いだか(会社全体の経営効率)」を表します。

ROE = 当期純利益 ÷ 自己資本 (株主のお金) / ROA = 当期純利益 ÷ 総資産 (すべてのお金)
ポイントROEのEはEquity(自己資本/株主資本)。ROAのAはAssets(すべての資産)。「株主から見た利回り」がROEで、「会社全体の事業効率」がROAです。この違いを押さえるだけで、財務分析の理解が一気に深まります。

レストラン開業で例える — 借金でROEが化けるカラクリ

具体例で考えてみましょう。あなたが1,000万円を投じてレストランを開業し、年間100万円の純利益を出したとします。借金はゼロです。このとき、自己資本1,000万円・総資産1,000万円なので、ROEもROAも同じ「10%」です。

では、別の方法を試したらどうなるでしょうか。自己資金は200万円だけにして、残りの800万円を銀行から借りて合計1,000万円の店を作ったとします。同じように100万円の利益が出たとすると、どうなるでしょうか。

総資産(店全体)の1,000万円に対して100万円稼いだので、ROAは「10%」のままです。しかし、自己資本(自分の懐から出したお金)は200万円だけなので、ROEを計算すると「100万円 ÷ 200万円 = 50%」へと大化けします。たった200万円の元手で100万円儲けたことになるからです。

このように、借金(負債)をテコの原理(レバレッジ)として使うことで、ROAが全く同じでもROEだけを跳ね上げることができます。これが「ROEが高いのに、実は借金まみれで危ない会社」が生まれるカラクリです。

借金によるROEの変化①自己資金1,000万円(借金ゼロ)で利益100万円 → ROE 10% / ROA 10% ②自己資金200万円+借金800万円で利益100万円 → ROE 50% / ROA 10% 利益の額や店舗の収益力(ROA)は全く同じなのに、借金を増やすだけでROEは5倍に見えます。

ROEとROAの比較早見表と合格ラインの目安

日本株市場において、投資家が一般的に「優良」と見なす水準の目安を比較表にまとめました。

経済産業省の「伊藤レポート」以降、日本企業はまず「ROE 8%以上」を達成することがグローバルな投資家に評価される最低ラインとされています。できれば10%以上、15%を超えると文句なしの稼ぎ上手です。

一方のROAは、分母にすべての借金を含むためROEより数値が低くなります。日本企業の平均は3〜4%前後ですが、「5%以上」あれば合格点、「8%以上」なら借金に頼らず本業の仕組みだけで圧倒的に稼いでいる超優秀企業と判断できます。

ROEとROAの徹底比較と目安
項目ROE (自己資本利益率)ROA (総資産利益率)
計算式当期純利益 ÷ 自己資本 × 100当期純利益 ÷ 総資産 × 100
重視する人株主・外国人投資家銀行(債権者)・経営陣
日本企業の平均約 8% 〜 9%約 3% 〜 4%
合格ライン(目安)8%以上 (10%以上で優良)5%以上 (8%以上で極めて優秀)
メリット株主資本の利回りが一目でわかる借金の多寡に左右されず実力が出る
弱点・死角借金を増やすと数値が跳ね上がる業種(製造業vsIT)の差が大きすぎる

初心者はどっちを見るべき? — 業種ごとの使い分けと注意点

結論から言うと、初心者はまず『ROE』を基準にしつつ、必ず『自己資本比率』または『ROA』をセットで確認するのが正解です。

株主として投資する以上、「自分の預けたお金をどれだけ増やしてくれるか(ROE)」を重視するのは自然なことです。しかし、ROEだけを見て「ROE 25%だから最高の会社だ!」と飛びつくと、実は自己資本比率が5%しかなく、倒産寸前で借金漬けだったという落とし穴にはまります。

また、業種によってROAの水準はまったく異なります。鉄道会社、鉄鋼メーカー、海運会社、不動産会社などは巨大な設備や線路、船、ビル(資産)が必要なため、必然的にROAは低くなります(2〜4%でも標準的)。逆に、工場や在庫を持たないIT企業やコンサルティング会社は総資産が小さいため、ROAが15%を超えることも珍しくありません。ROAを比べるときは、必ず「同じ業種のライバル企業」と比較してください。

レバレッジの罠に注意ROEが高くても、ROAが1%前後で自己資本比率が極端に低い会社は、過度な借金で無理やり数字を作っているリスクがあります。不況や金利上昇で借金の利息負担が増えた瞬間に赤字転落しやすいので注意しましょう。

2つの指標でわかる企業の4つのタイプ

ROEとROAを組み合わせると、その会社がどうやって利益を稼ぎ出しているのかが一目でわかります。

①「高ROE × 高ROA(理想のビジネス)」: 借金に頼らず、商品やサービスの競争力だけで莫大に稼いでいる企業。キーエンスや任天堂、信越化学工業などの一流企業がここに入ります。

②「高ROE × 低ROA(レバレッジ型)」: 借金を上手に使って、自己資本に対する利益を最大化している企業。商社や不動産会社、金融機関などが該当します。景気が良いときは強いですが、金利上昇に注意が必要です。

③「低ROE × 低ROA(改善の余地大)」: 資産を有効活用できておらず、収益力も弱い企業。PBR1倍割れの万年割安株に多く見られます。

④「低ROE × 高ROA(超安全・ためこみ型)」: 本業は極めて高収益なのに、無借金で過去の利益を現金として山のように溜め込んでいる企業。財務は鉄壁ですが、株主還元が不十分とみなされて外国人投資家から自社株買いや増配を求められやすいタイプです。

黄金の組み合わせ「ROE 10%以上 かつ ROA 5%以上」。この条件を満たす企業をスクリーニングするだけで、過剰な借金リスクを排除しながら、高収益で強いビジネスを持つ本物の優良株を絞り込むことができます。

よくある質問

ROEが高くてROAが極端に低い会社は危険ですか?

一概に危険とは言えませんが、財務レバレッジ(借金)に過度に依存している可能性があります。自己資本比率を確認し、20%〜30%を下回っている場合は、金利上昇時や景気後退期に業績が急悪化するリスクを警戒すべきです。

なぜ日本企業は欧米企業に比べてROEが低いと言われるのですか?

日本企業は過去のバブル崩壊や金融危機の教訓から、借金を減らして手元に現金を溜め込む(内部留保を厚くする)傾向が強かったためです。分母である自己資本が大きすぎるためROEが低く抑えられていましたが、近年の東証改革で自社株買いや増配が進み、ROEは上昇傾向にあります。

ROAの計算で分子に「営業利益」を使う場合もあるのはなぜですか?

ROAの計算には「当期純利益」を使うケースと「営業利益」を使うケースがあります。借入金の利息支払いなどの財務活動を切り離し、純粋に本業の事業資産が稼ぐ力を測りたいアナリストは営業利益を分子に使うことがあります。初心者はまず一般的な「当期純利益」で覚えて問題ありません。

四季報や証券アプリではどちらが掲載されていますか?

多くの証券アプリや会社四季報では、株主重視の流れから「ROE」がメインで掲載されています。ROAは詳細な財務指標タブや有価証券報告書などで確認できます。

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